研究概要 |
1,7種類のヒト大腸癌由来培養細胞株におけるp110γタンパク質の発現レベルを解析したところ,すべての細胞株でその発現が極めて低下していることが明らかになった。一方,P110γ遺伝子領域(ヒト7q22)のFISH解析を行ったが,いずれの細胞株においても大きな欠失は見出されなかった(最近,ヒト大腸癌において,p110γ遺伝子転写調節領域のメチル化により遺伝子発現低下が導かれることが報告された)。 2,ヒト大腸癌由来培養細胞株HCT116,DLD-1細胞株での強制発現実験系において,野生型p110γの外来的な発現はフォーカス形成能低下,軟寒天培地内でのコロニー形成低下,ヌードマウス皮下での腫瘍形成能の低下を引き起こすが,点変異導入によるキナーゼ活性不活型P110γの発現は,野生型p110γ発現と同等の作用を示した。 3,p110γは他のタンパク質にも見いだされる三つの機能ドメイン(Ras結合ドメイン,C2ドメインおよびキナーゼドメイン)を有する。これらに加え,結晶構造解析により見いだされた特徴的なヘリカルドメインおよびN末端領域の,計5種類のp110γ部分断片の発現ベクターを構築し,これらの導入細胞にて,フォーカス形成能,コロニー形成能の評価を試みた。この実験系ではRas結合ドメインあるいはキナーゼドメイン単独の発現により,フォーカス形成能,コロニー形成能の低下が導かれた。 4,しかしながら,Ras結合ドメインでの点変異導入により,Ras結合活性を消失したp110γの発現でも,コロニー形成は抑制された。 5,p110γのN末端からの欠失変異体は概ね細胞内で安定に発現しなかったので,C末端からの欠失変異体を作製した。その結果,キナーゼドメインを含むC末端領域を欠く変異体は,もはやコロニー形成抑制作用を示さなかった。 以上の結果から,p110γはそのC末端領域を介して,しかしキナーゼ活性とは独立した様式により,細胞増殖抑制および癌細胞形質の改善を導くことが,本研究によって解明された。
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