多くの動物の卵母細胞では、減数分裂再開後に一旦休止し、受精を待つことが知られている。しかしヒトデ卵母細胞の減数分裂は、1-MAによって再開した後では休止せず、第2分裂終期まで進行して減数分裂を完了すると、これまで考えられていた。確かに、実験的に単離した卵母細胞を1-MAを含んだ海水で処理すれば、休止しない。ところが本研究から、自然状態の卵母細胞は卵巣内で第1分裂中期で再停止(中期休止)していることが明らかになった。この中期休止は1〜3時間継続し、卵巣内から体外(海水中)に放卵されると減数分裂が再開される。さらに、中期休止はMAPキナーゼ活性によって維持されること、放卵後の細胞内pH(pHi)上昇によって休止が解除されること、そしてpHi上昇はNa+/H+アンチポーターによって引き起こされることも明らかにした。 この中期休止は、正常発生を保障する受精タイミング補正装置として役立っていると考えられる。すなわち、卵巣内で一斉に減数分裂を再開した卵母細胞は、速やかに海水中に放卵されたならば、受精最適時(第1極体放出前)に精子と出会える。しかし実際には放卵が完了するまでに2〜3時間も要するので、中期休止がなければ、多くの卵は減数分裂を終了してから、ようやく精子に出会うことができることになる。そのような時期に受精すると、多精となって発生が異常になってしまう。したがって本研究は、正常発生の基盤となる分子機構を明らかにしたものでもある。
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