ES細胞は受精後3.5日卵の内部細胞塊に由来する分化全能性を保持した細胞である。我々は色素細胞の試験管内分化のモデル系としてES細胞から色素細胞を誘導する培養系を開発した。未分化ES細胞を骨髄由来のストロマ細胞と共培養すると、デキサメタソン存在下で多数の色素細胞が出現した。この培養はc-Kitやエンドセリン3に依存することから、皮膚の色素細胞であると結論された。さらに、体軸後方化因子であるレチノイン酸の添加により色素細胞がさらに増加した。培養初期にこの培養で誘導された細胞をソートし培養したところ、色素細胞コロニー形成能を持つ未分化な前駆細胞が存在すること、その出現頻度はエンドセリン3やレチノイン酸添加により増加することがわかった。このことは、この培養系で色素細胞の唯一の祖先である神経冠細胞が誘導されていることを示唆している。胚における神経冠細胞の表面マーカーである低親和性NGF受容体抗体を利用したES細胞由来の神経冠細胞そのものの精製には成功しなかったが、この培養系から神経冠細胞を精製可能なマーカーを検索し、神経冠細胞をES細胞から誘導し、精製する研究を展開したい。研究の過程で、色素細胞が分化できないc-Kit遺伝子を破壊したES細胞細胞にエンドセリン3を添加することにより色素細胞が出現することがわかり、生体では色素細胞の分化に必要不可欠なc-Kitシグナルがエンドセリン3で代替可能なことが示された。
|