Aβの前駆体であるAPPのプロセッシングにはα切断経路とβ切断経路があり、Aβはβ切断経路を経て最終的にγ切断によって、C末端の長さの異なる2つの主要な分子種Aβ40とAβ42として産生される。AβはAD発症の根幹に関与する因子と考えられており、Aβ産生に伴うAPPのプロセッシングの解明はADの病因を明らかにする上で重要である。我々は、13年度に実施した研究を通じて、APPのプロセッシングに際して、γ切断が先でα/β切断が後で行われる経路が存在する可能性は低いことを証明した。つまり、APPのプロセッシングはα/β切断がまず起こり、続いてγ切断が起こるのが唯一の経路である。このことを前提にして14年度には、細胞内におけるAβ産生のcompartmentに関する研究を行い、新たな知見を得た。野生型APPと共に13年度に作製したα切断を選択的に抑制するAPP変異体(Aβ17L→E)とβ切断を選択的に抑制するAPP変異体(Aβ1D→G)に、ER-targeting motifを付加したAPP_<KK>、APP_<17E/KK>、APP_<1G/KK>を作製した。APP_<17E/KK>とAPP_<1G/KK>はそれぞれα切断あるいはβ切断が抑制され、かつ細胞内compartmentであるERにその発現が集積するようになる。これらの変異体のβ切断あるいはα切断に対する反応性を調べたところ、α切断とβ切断が共に生じていることを確認した。次に、Golgiを破壊することによって蛋白のsortingがERで停止させる薬剤であるbrefeldin Aを用いて、ERにおけるAPPのプロセッシングを調べたところ、α切断は確認できたがβ切断は確認できなかった。このことから、従来細胞内におけるα切断部位として細胞表面が挙げられているが、これに加えてERにおいても、α切断が行われることが明らかとなった。
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