研究概要 |
神経の再生過程には損傷部近位に由来するグリアと遠位由来のグリアによる再生誘導機構が存在すると推測されるが詳細は不明である。著者は、再生誘導時期と遠位神経束からの再生阻害因子の放出時期とが一致している可能性を得ている。そこで、再生阻害機構を実証し阻害因子を確実に除去する手法を確立することから始めた。再生阻害因子の放出機構を実証。(1)マウス右総腓骨神経を切断し、遠位神経をリンガー液に浸漬後、2枚のフィルムに挟みそのまま生体内に3日から18日まで適時温存した。また、マウス視神経片においても同様の方法によって生体内温存した。中枢性、末梢性とも遠位神経はやがて変性する。変性遠位神経片を切断近位の新鮮な末梢神経の断端に向かい合うようにしてフィルムの上に結紮固定した。中枢性、末梢性いずれも切断後7日目から14日目の遠位神経片を用いた場合にのみ発芽は認められなかった。(2)抗髄鞘関連等蛋白質(MAG)を上記のフィルム上に滴下すると再生神経が伸長した。(3)再生阻害性を示す遠位視神経片をアクリルゲル上に3日間冷蔵保存した。末梢神経片ではフイルム上に載せたものに対して結合組織と共にゲル上に3日間冷蔵保存した。これらの資料にウエスタンブロテイングするとゲルに浸透した蛋白質からMAGが検出された。(4)同様の資料をリン酸緩衝液に浸潰・遠心後、電氣泳動するとMAGの分子(69KD, 72KD)のうち再生阻害作用を示す蛋白質(約56KD)が検出された。(5)変性遠位神経片を電子顕微鏡で検索すると阻害作用を示す時期のものはすべて脱髄化していた。以上の結果、遠位神経の脱髄に伴って髄鞘に局在するMAGのうち細胞外ドメインが離出し神経束外へと放出され再生神経の発芽・伸長を阻害する機構が判明した。グリア検出法の確立。フィルム上のシュワン細胞を薄切することなくそのままの状態で観察する免疫組織化学法を確立した。
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