1.グリアによる再生誘導機構を検証するモデルの確立。神経の再生過程には損傷部位の近位に由来するグリアと遠位由来のグリアとによる再生誘導機構が存在すると推測されるがまだ実証されていない。著者は、新たに開発したフィルムモデルによって神経の再生初期過程を追跡し、末梢神経においても中枢神経系のように再生阻害されるとの事実を捉えた。さらに神経から遊離する再生阻害因子が髄鞘関連糖タンパク質(MAG)であることを中枢神経系と末梢神経系の両方系において生化学的に実証した。この因子は軸索変性に伴う脱髄において細胞外ドメイン部位から遊離し易く再生抑制効果を示すとの所見を得て今回発表した。再生は特定の時期に阻害される。阻害される時期までの再生神経を詳細に観察しても遠位神経へと収斂する像は見られない。再生阻害因子を抗体によって中和化し再生神経が再び伸張してくる様態を観察したところ、再生神経の遠位神経への収斂像が捉えられた。抗体の濃度を検討して中和化される至適濃度を決定し、グリアによる再生誘導機構を検証するモデルを確立することが出来た。2.シュワン細胞による再生誘導機構。神経端からフィルム上へ遊走してくるシュワン細胞の形態について、組織を薄切することなく免疫組織化学法によって特異的に検出する方法を開発した。阻害因子を抗体によって中和化し再生神経の伸長状態をシュワン細胞の遊走の観点から分析した。その結果、(1)シュワン細胞は両方の神経端からそれぞれ遊走する。近位神経端から遊走するシュワン細胞と遠位神経からとでは形態は異なっていた。(2)遠位神経から遊走するシュワン細胞は次第に整列してくる。(3)近位神経から遊走するシュワン細胞と接触すると遠位由来シュワン細胞は整列し架橋形成が進む。(4)この橋を走行経路として再生軸索は伸長する。(5)近位由来シュワン細胞は遠位神経の方向へと整列するとの所見が新たに分かった。
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