神経の再生過程にはグリアによる再生誘導機構が存在すると推測されるが未だに実証されていない。それは、グリアの動態を再生軸索との関連の上で捉えられるモデルが確立されていないからである。著者は生体内でありながらあたかも培養上の組織を取り扱うように再生神経を観察することができるフィルムモデル法を開発した。今回、フィルムモデル法を使ってグリアの再生誘導機構を成熟雌マウスの総腓骨神経と視神経を使って検討した。その結果、(1)切断遠位神経は中枢性、末梢性のいずれも切断後7日目から14日目までの期間に限定して再生阻害因子を放出し、再生発芽を抑制する。(2)ウエスタンブロッティング、電気泳動法、抗体による中和化、電子顕微鏡法の諸実験を通じて、放出される再生阻害因子は髄鞘関連糖タンパク質(MAG)であり、脱髄に伴ってMAGのうち細胞外ドメインが遊離し再生阻害効果を発揮する。(3)再生阻害効果を抗MAG抗体によって中和化すると再生神経像が光学顕微鏡下に観察できる。とりわけ、シュワン細胞の動態をフィルムモデルによって特異的に観察する目的で免疫組織化学法を今回開発し分析した。その結果、(4)シュワン細胞は切断近位と遠位の両方の神経端からそれぞれ遊走する。(5)近位由来のシュワン細胞と遠位由来とでは形態が異なっている。近位由来のシュワン細胞は紡錘形の細胞体から2本の長い突起を有し、それぞれの突起は4-5本の分枝を持つのが特徴である。遠位由来のシュワン細胞は突起も分枝も持たない。(6)遠位由来のシュワン細胞は日数を経るほどに次第に整列してくる。(7)遠位由来のシュワン細胞は、近位由来のシュワン細胞と接触すると整列しはじめ、両者の細胞による架橋形成が進む。(8)この橋を走行経路として再生軸索は伸長する。(9)近位由来シュワン細胞は遠位神経の方向へと整列するなどの所見を新たに得ることができた。
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