研究概要 |
Superoxide dismutase (SOD)1遺伝子異常を有する家族性筋萎縮性側索硬化症およびそのモデル動物における運動ニューロン死のメカニズムの一つとして、変異SOD1凝集機序を解明した。変異SOD1凝集の本体であるgranule-coated fibril(封入体)形成機序には、Maillard(蛋白糖化)反応が関与していた。つまり、不溶性かつ細胞毒性の高い最終蛋白糖化産物修飾変異SOD1が生成され、granule-coated fibril形成に関与していた。また、封入体形成に伴って細胞内正常構成蛋白質も凝集し細胞代謝機構が障害されるため,細胞死が加速されていた。銅をSOD1に特異的に運び活性化させるcupper chaperone for SODは,変異SOD1と相互作用することにより、封入体内に凝集し、凝集を促進していることを明らかにした。一方,残存運動ニューロンの一部は神経再生システムの一つである肝細胞増殖因子(HGF)とそのレセプターであるcMetシステムを高発現することにより,ALSストレスからの細胞死から自らを守り生存を高めていることを解明した。さらに、変異SOD1凝集はHGF-cMetシステムの破綻を惹起させ、より細胞死を早める結果となった。細胞は過酸化水素などの活性酸素種を産生するが,過酸化水素は、ペルオキシレドキシン(Prx)やグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)により水と酸素とに分解される。PrxとGPxは細胞内レドックスシステムに関与し、細胞が生存するのに不可欠なシステムにリンクしている。変異SOD1を有する生体系において、変異SOD1凝集に伴ってPrxとGPxとの両者が封入体内に共凝集を起こすことにより、レドックスシステムが破綻し、変異SOD1凝集毒性に基づく神経細胞死をさらに増強させていることを明らかにした。
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