嗅覚伝達の機能的ユニットである嗅球糸球体は嗅覚情報処理に極めて重要であると考えられる。そこで本研究の目的は齧歯目と食虫目をはじめとする様々な哺乳類を比較しながら、嗅球における嗅入力、投射ニューロン、介在ニューロンの相互結合関係を、定性的、定量的に詳細に解明することで、嗅覚情報処理の初段階の構造的基盤を明らかにすることである。 哺乳類の嗅球における神経構成を比較解剖学的に研究するにあたり、齧歯目のラット、食虫目ではジャコウネズミ、ハリネズミ、モグラ、さらにツパイ目のツパイ、翼手目のユビナガコウモリを試料として、検討をおこなった。 ここで、食虫目ジャコウネズミの嗅球には、新知見として小巣体とそこに関係したタッセル細胞の存在を最近我々が報告していたので、小巣体の有無に焦点をあてて免疫組織化学法を中心として解析した小巣体は、糸球体に非常に密接な関係を持つが、それとは明らかに異なる特殊なシナプス小領域であり、タッセル細胞はそこに関連した新たな投射ニューロンである。 上記中、ジャコウネズミとモグラのみに、小巣体が存在し、他の種類には存在しなかった。ハリネズミでは糸球体の下部にCa結合蛋白カルビンディンD28K陽性の小ニューロンが数個集まる領域があるが、それらは不規則に分布するのみであった。ジャコウネズミとモグラでは、小巣体はGABAの合成酵素であるGAD陽性の特殊なシナプス小領域であり、糸球体と小巣体がカラム様となって規則的に並ぶ構成であり、大きく異なった。さらに、ハリネズミ、モグラ、ツパイ、ユビナガコウモリで、糸球体の直下に嗅細胞に特有なolfactory-marker-protein陽性の太く、短い少量の突起が糸球体からはみ出すように伸びていた。これらは、齧歯目では発生の途上に出現するのみである。これらから、ジャコウネズミとモグラには嗅球の投射ニューロン・介在ニューロンシステムに平行した2群が存在すると予測できる。
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