本研究の目的は齧歯目と食虫目をはじめとする様々な哺乳類を比較しながら、嗅球における嗅入力、投射ニューロン、介在ニューロンの相互結合関係を、定性的、定量的に詳細に解明することで、嗅覚情報処理の初段階の構造的基盤を明らかにすることである。嗅覚情報処理の機能的ユニットである嗅球糸球体を調べるために次のような解析を行った。 1 哺乳類嗅球の比較解剖学的解析:1)ジャコウネズ嗅球には糸球体-僧帽細胞/房飾細胞系と小巣体-タッセル細胞系の2つの平行した投射系が存在する。食虫目のモグラにのみ、ジャコウネズミで発見した特別なシナプス領域である小巣体が存在した。モグラにおいても同様な2つの平行した投射系が存在する可能性がきわめて高いと思われる。2)げっ歯目におけると同様、他の哺乳類(食虫目、ツパイ目、翼手目)においても嗅球糸球体の介在ニューロンが、嗅入力の有無により大きく2グループに分かれることを確認した。3)ジャコウネズ嗅球における両方向性のトレーサーの細胞外注入実験より、嗅球内から小巣体に向かって、軸索突起が限局して収束していることが判明した。 2 ラット嗅球の解析:1)投射ニューロンである僧帽細胞樹状突起tuftにおいて、嗅入力及び傍糸球体細胞とのシナプス結合両方ともに、tuftの遠位、近位を選ばずパッチ状に分布していた。従って、僧帽細胞樹状突起でのスパイク発生制御が従来考えられてきたものより、はるかに複雑であることがわかった。2)介在ニューロンについては、これまで我々は、嗅入力を受けるGABA陽性のタイプ1と嗅入力を受けないタイプ2グループを化学的性質から分類していた。ところが、電子顕微鏡による解析から僧帽細胞とギャップ結合をつくる傍糸球体細胞は、嗅入力を受けるが、GABA陽性ではなく、これまでの免疫細胞化学的解析から捉えられていなかったタイプであることが判明した。 以上から哺乳類嗅球の構成の複雑さが捉えられ始めたといえる。
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