マムシやパイソンの赤外線受容器(ピット器官)は密な血管網を有し、赤外線受容時に血流量が迅速に増大する。この変化には顔面神経に含まれる副交感神経の関与が予想されたが、ピット器官に節前線維を送る末梢枝を切断してもこの変化は不変であり、顔面神経は直接関与しないことが示された。一方、ヘビ類の顔面神経に関する研究は少なく、今回、軸索逆向性トレーサーHRP注入実験と遠心性起始細胞の代表的マーカーであるChAT抗体を用いた免疫組織化学染色により、マムシ顔面神経各末梢枝の遠心性起始細胞と求心性投射の検討を行った。その結果、マムシ顔面神経末梢枝の中で、口蓋神経の構成成分は哺乳類一般と同様であるが、鼓索神経はいわゆる舌神経を形成せず、求心性線維はすべて一般体性求心性線維であり、遠心性線維としては一般臓性遠心性線維のみならず特殊臓性遠心性線維をも含むことが示された。マムシ顔面神経の下顎枝は、頭蓋の外で分岐すると考えられる。さらにマムシのピット器官の血管網では、動脈から毛細血管、静脈への血球移動観察が経皮的に可能であることを利用して、血球のモデルとして血中にFITC標識した微小蛍光ビーズを注入後、刺激源として赤外線レーザースポット光をピット器官の特定の部位に照射し、高倍率蛍光落射実体顕微鏡と高感度高速度ビデオカメラを組み合わせたシステムを用いて無刺激時および刺激時におけるピット器官血管網の250コマ/秒の画像記録を行った。個々の血管における血流速度の絶対値は、画像解析によって計測した。局所血流量の変化については、赤外線照射部位の毛細血管で血球の移動速度は、照射中に優位に増加するが(P=0.0007)、動脈や静脈では、このような変化は見られなかった。この結果は、赤外線刺激に対するピット器官血流量調節機構が極めて局所的に作用し、軸索反射的な反応であることを予想させる。
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