本研究の目的は大脳基底核の神経回路の解明であり、特に、下行路との関係を明らかにすることにある。下等動物では、大脳基底核の出力の一部は中脳網様体の脚橋被蓋核(PPN)で中継され、延髄および脊髄に下行路を投射することが報告されている。しかし、高等動物では大脳基底核からの下行路は明らかにされていない。われわれはニホンザルを用いて、淡蒼球から視床および下位脳幹への投射を実験的に観察し、以下の結果を得た。淡蒼球の尾側腹外側部は運動系淡蒼球であり、一次運動野系、固有補足運動野系、前補足運動野系、運動前野系の各領域にわけられるが、境界領域ではoverlapする。各領域は固有のbasal ganglia-thalmocortical subloopを形成する。また、運動前野系は背側運動前野と腹側運動前野から起こる経路は異なり、それぞれ固有のsubloopを形成する。 淡蒼球内節(GPi)からの下行路は主にGPiの尾側腹外側部から起こり、PPNの背外側部に終止する。PPNは前頭前野内側面(辺縁下野と辺縁前野)から自律神経系の投射も受ける。PPNから延髄網様体巨大細胞核および脊髄に直接投射する経路は極めて少量であり、PPNは近傍に存在する介在ニューロンを介して、中脳中心灰白質、nucleus cuneiformis、橋網様体核などに投射し、これらの領域が直接脊髄に投射する経路と延髄網様体巨大細胞を経由して脊髄に投射する経路が示唆された。延髄網様体巨大細胞核は、運動前野の背側部(PMd)と腹側部(PMv)から直接の、また大脳基底核から多シナプス性の入力を受け脊髄に直接投射し、この下行路系が歩行運動に最も強く関与する。さらに、上・下橋網様体核および中心灰白質外側部からの脊髄投射も歩行運動の制御に関与するようであり、特に前者は筋緊張の調節に深く関与する。下等動物と異なり、霊長類では大脳基底核からの下行路は多シナプス性に連絡し複雑な運動制御が行われるようである。
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