研究概要 |
ヒトてんかん患者に対する脳外科治療によって切除されるてんかん焦点の病変部位の特徴を引き続き検証した。昨年度はてんかん焦点部においてしばしば観察される粗大な脳形成異常において出現異常細胞とグルタミン酸トランスポーターの表出異常について相関を定性的に見いだした。今年度はさらに対象を広げ、微細な大脳形成異常(いわゆる微小形成不全microdysgenesis;以下MDについて焦点をあてた。MDの診断はこれまで統一した診断基準がなかったために、本研究ではじめてパイロット研究を行い、大脳における微細ながらも形成異常として意味のある器質的な変化を統計的な有意差をもって見いだした(原著論文発表)。そしてそれらの基準をもっててんかん外科手術例の大脳焦点部位の再評価を行ったところ、側頭葉外てんかん焦点部の約1割、側頭葉てんかんの側頭葉外側部の約2割にMDが存在することを見いだした(論文準備中)。そして、その病変が何故てんかん原性を獲得するのか、機能的な背景をグルタミン酸トランスポータ-(EAAT1,EAAT2,EAAT3)に対するモノクローナル抗体を用い蛋白表出の異常の有無を検証した。その結果、MDの大脳皮質では、正常対照に比較して有意にグルタミン酸トランスポーターの表出減弱が認められた。しかし、一方、シナプトフィジンによる免疫染色では異常がなかったため、この変化はシナプスの形成異常を反映したものではなく、むしろシナプス間隙におけるグルタミン酸のリサイクルに関する機能異常を反映しているものと考えられた。このことによりシナプス間隙のグルタミン酸の過剰状態を惹起し、てんかん原性に影響を与えていることが示唆された(論文準備中)。
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