研究概要 |
難治性てんかんの機能的脳外科治療法のひとつの選択として軟膜下皮質多切術(multiple subpial transection、以下MST)が開発され、良好な手術成績を示している。その原理は、大脳皮質に垂直にスリットを施すことにより、垂直方向の遠心線維を温存しながら、水平方向の線維を離断することにより、発作波の同期を抑制するというものである。しかしこの手技が脳に与える影響はほとんど知られていない。そこで、治療過程にて過去に施されたMST処置巣を分子病理学的に検討を加えた。グルタミン酸トランスポーター(EAAT-1,2,3)の他、グルタミン酸レセプターとしてはGluR1、GluR2/3、NMDAR2A/B、そしてシナプス関連蛋白としてはsynaptophysin、SNAP-25、α-synuclein、脳組織の瘢痕化による蛋白表出としてGlial fibrillary acidic proteinを免疫組織学的に染色し、その染色態度を計測学的に評価した。その結果、MST処置巣におけるグルタミン酸トランスポーターの表出は、GFAPによるスリット状のグリオーシス巣を超えてまだら状に免疫組織学的活性が増減していることが確認された。このようにMSTによってグリア細胞型グルタミン酸トランスポーターの組織内分子組成が変化することは、MSTが単に神経細胞の水平線維の遮断だけでなく、アストロサイトの動態にも変化を惹起していることを示唆しており、てんかん脳では神経-グリア相関に破綻が生じていることが推測された。
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