研究概要 |
本年度は、細胞生物学的に研究が遅れているミクロダリアの機能解明に焦点を当てた。脳虚血、脳傷害時における神経細胞障害にはミクロダリアの活性化とそれによるサイトカインの放出が重要な役割を果たしている。そこで、以下の項Hについて解析を行った。 1)脳虚血後の記憶障害を改善する薬(PEPA:ピーパ)の作用機序について PEPAはニューロンのAMPA型グルタミン酸受容体に作用し、その脱感作を抑制することによってAMPA型グルタミン酸受容体反応を著明に増大することが報告されている。ミクログリアには研究代表者がすでに発見したようにAMPA型グルタミン酸受容体が発現しているので(Noda et al.,2000)、ミクロダリアを介する記憶障害改善機構を検討した。その結果、PEPAはミクログリアのAMPA型グルタミン酸受容体反応を増強することによって、最終的にTNF-a(腫瘍壊死因子)の放出が減少することがわかった。TNF-aは高濃度では細胞毒性を有すると考えられているため、このような機序が記憶改善作用に寄与していることが示唆された。 2)ミクログリアのブラジキニン受容体の発見 炎症性メディエーターであるブラジキニンの受容体がミクログリアに発現していることを証明した。ニューロンで報告されているように、細胞内シグナリングの結果、Ca2^+依存性K+電流が観測された。さらにその結果、ミクログリアから一酸化窒素(NO)が放出されることが判明した。また、静止時のミクログリアにはB2受容体しか発現していないが、ブラジキニンによる活性化によってB1受容体を新たに発現することが判明した。これらのことより、末梢由来あるいは脳内で生成されたブラジキニンはミクログリアを活性化し、NOを放出することによって、ニューロン・アストロサイトのみならず、脳血管平滑筋にも作用する可能性が示唆された。
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