研究概要 |
ニューロンのNaポンプにおけるアイソフォームに特有な活性制御機構を解析するために,ラット胚の大脳由来の初代培養神経細胞を用いて,活性制御に対する,細胞の成熟度,および細胞内ATP濃度の影響を検討した.その結果,培養後期の成熟した神経細胞と異なり,培養初期の未成熟な神経細胞では,α2型/α3型(神経細胞型)Naポンプのイオン輸送活性が、生理的濃度の細胞外K^+によってほとんど阻害されないこと,また,細胞をグルタミン酸で刺激すると,神経細胞型Naポンプとα1型(普遍型)Naポンプの両者のイオン輸送活性が上昇することを明らかにした.一方,培養によって細胞が成熟するとともに,無処理,無刺激の条件下(basalな状態)における,細胞外K^+による神経細胞型Naポンプのイオン輸送活性の特異的阻害と,グルタミン酸刺激後におけるその阻害の解除が顕著になり,その結果,成熟した細胞におけるアイソフォームに特有な活性制御が出現した.これは,活性制御機構に細胞外K^+による神経細胞型Naポンプの阻害とその解除が関与することを示唆し,その機構が細胞の成熟に伴い発達することを示すものであった.また,細胞へのエネルギー供給を低下させて,細胞内ATP濃度を低下させると,basalな状態と比較して神経細胞型Naポンプ活性が特異的に上昇するが,この時も細胞外K^+による阻害は見られず,細胞外K^+が関与する機構が活性上昇の原因であることが示された.一方,intact細胞を用いてNaポンプのリン酸化レベルを検討した結果から,basalな状態においてもNaポンプのα鎖がリン酸化されていること,全α鎖当たりのリン酸化量がグルタミン酸刺激によってわずかに増加することが明らかになり,細胞外K^+が関与する活性制御機構とNaポンプのリン酸化の関連が示唆された.
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