本研究では、外界環境刺激に応じて生じる紳経成長円錐の運動や形態の変化における成長円錐内の局所的蛋白新生の意義を解明する目的で、Ca^<2+>依存的に働く蛋白質翻訳因子eEF-2(eukaryotic elongation factor-2)の成長円錐の運動制御における生理的役割を検討する。 平成13年度では、先ず最初に、ロックフェラー大学(現エール大学)のA.Nairnより供与されたリン酸化eEF2(Phospho-eEF2)に対する特異的抗体を用いてWestern blottingと免疫細胞化学的手法で成長円錐におけるeEF2の発現と分布について検討した。鶏卵胚の後根神経節(DRG)細胞をラミニン上に培養して神経成長因子(NGF)で神経突起伸長を誘発する実験系を用いた。卵胚8-12日目の大脳、小脳、DRGにおけるPhospho-eEF2の発現を確認した。突起伸長中の培養DRG細胞では、細胞体と成長円錐にPhospho-eEF2が分布していたが、その発現量は少なかった。神経突起部では細胞体や成長円錐に比してPhospho-eEF2の分布は少なかった。次に、培養液に高濃度KClを添加して細胞膜を脱分極させて細胞内Ca^<2+>濃度を人為的に上昇させたところ、細胞体と成長円錐共に有意にPhospho-eEF2が増加していた。これは、Ca^<2+>依存的にeEF2がリン酸化されたことを示唆する。また、KCl刺激による細胞内Ca^<2+>濃度の上昇は神経突起伸長を停止させ、成長円錐の崩壊を誘発した。非リン酸化型eEF2がmRNAの翻訳活性を持つことが知られているので、他のCa^<2+>依存的シグナル経路の影響を排除して考えることは全くできないが、成長円錐内でeEF2の翻訳活性が低下することで突起伸長が阻害された可能性がある。今後、細胞生理学的実験を行ってこの可能性について検討する予定である。
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