本研究は、外界環境刺激に応じて生じる神経成長円錐の運動や形態の変化における成長円錐内の局所的蛋白新生の生理的意義を解明することを目的とし、神経成長因子NGFに誘発される神経突起伸長および軸索反発因子Semaphorin3A(Sema3A)による成長円錐崩壊における局所的蛋白新生について解析した。平成13年度では、鶏卵胚の後根神経節(DRG)細胞をラミニン上に培養してNGFで神経突起伸長を誘発する実験系を用いて解析したのに対し、平成14年度では、同様の培養細胞においてSema3A刺激による成長円錐崩壊の実験系を用いて検討した。卵胚7-8-日目の培養DRG細胞に蛋白翻訳阻害剤であるanisomycinを添加した条件下ではSema3A刺激による成長円錐崩壊が有意に抑制された。次に、蛋白翻訳因子eIF4EおよびeIF4EBP1の翻訳活性化に伴うリン酸化亢進について、リン酸化されたそれらの翻訳因子を特異的に認識する抗体を用いて免疫細胞化学的解析を行った。成長円錐上に存在するeIF4EおよびeIF4EBP1の双方ともSema3A刺激によってリン酸化状態が亢進することが認められた。即ち、Sema3A刺激によってこれらの翻訳因子を介する局所的な蛋白新生が誘発されるものと考えられた。更に、Sema3Aの細胞内シグナル伝達を担うチロシンリン酸化酵素Fynの阻害剤lavendustin-AによってSema3A刺激によるこれら翻訳因子のリン酸化亢進が阻害された。以上のことから、Fynを介するシグナル伝達経路の下流に蛋白新生を誘起するカスケードが存在するものと考えられた。Sema3A刺激による細胞内シグナル伝達系はCa^<2+>非依存的であることから、Sema3A刺激による成長円錐崩壊に関連する蛋白新生機構は、Ca^<2+>依存的に行われる神経突起伸長に関連する蛋白新生機構とは独立的に機能するものと考えられた。
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