本研究は、外界刺激に応じて生じる神経成長円錐の運動や形態の変化における成長円錐内の局所的蛋白新生の生理的意義を解明することを目的とする。実験にはラミニン上に培養した鶏卵胚後根神経節細胞を用いた。平成13年度では、神経成長因子NGF刺激による突起伸長における蛋白新生について解析した。Ca^<2+>依存的に活性調節される蛋白翻訳因子eEF2について検討したところ、細胞体と成長円錐にリン酸化されたeEF2が分布していたが、その発現量は少なかった。次に、高濃度KC1添加によって細胞内Ca^<2+>濃度を上昇させたところ、成長円錐が崩壊して神経突起伸長が抑制された。この時、細胞体と成長円錐共にリン酸化eEF2が有意に増加した。これはCa^<2+>依存的にeEF2が成長円錐内でリン酸化され、Ca^<2+>依存的なeEF2による突起伸長制御系が成長円錐内に存在することを示唆する。平成14年度では、軸索反発因子Sema3A刺激による成長円錐崩壊における蛋白新生について検討した。活性化に伴う蛋白翻訳因子eIF4Eのリン酸化がSema3A刺激によって有意に亢進することが認められた。また、蛋白翻訳阻害剤であるanisomycinはSema3A刺激による成長円錐崩壊を抑制した。更に、Sema3Aの細胞内シグナル伝達を担うチロシンリン酸化酵素Fynの阻害剤lavendustin-AによってSema3A刺激による翻訳因子リン酸化亢進が阻害された。これらのことから、Fynを介するSema3Aシグナル伝達系によって活性化する蛋白新生カスケードが存在するものと考えられた。Sema3Aの細胞内シグナル伝達系はCa^<2+>非依存的であることから、Sema3A刺激による成長円錐崩壊に関連する蛋白新生は、神経突起伸長に関連するCa^<2+>依存的な蛋白新生とは各々独立に機能すると考えられ、刺激依存的に特有の局所的な蛋白新生が起こることが示唆された。
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