研究概要 |
ヒポカルシンは海馬錐体細胞内においてカルシウム濃度の変動に基づくアポトーシス誘導を抑制している可能性が示唆されている.本年度は,まずヒポカルシンが細胞死に及ぼす効果について,欠損マウス海馬初代培養系を用いて生存率を比較検討した.ヒポカルシンを発現していないグリア細胞では差異は認めなかったが,神経細胞では著しい生存率の低下を認めた.このことから,ヒポカルシンは細胞死抑制シグナルの維持に必須の因子であることが確認された.ヒポカルシンは高親和性カルシウム結合蛋白質で,海馬錐体細胞内の濃度は30μM以上で存在することから,細胞内カルシウムを緩衝することによって細胞死シグナルを抑制しているとも考えられる.そこでヒポカルシン過剰発現培養細胞と欠損マウス海馬神経細胞初代培養を用いて,高カリウム,カルシウム・イオノフォア,グルタミン酸などの刺激による細胞内カルシウム濃度の継時変化をFra2AMを用いて計測した.欠損細胞ではカルシウムの流入速度が遅くピーク値も低いが,排泄速度も遅く細胞内へのカルシウムの蓄積が認められた.一方,強制発現細胞ではピーク値は低い傾向にあるが排泄速度が速く速やかな回復が認められた.このことは,ヒポカルシンが細胞内カルシウムの単なるバッファーではなくカルシウムチャネルの活性化に働くとともに,カルシウムポンプに対しても活性化に働いており,積極的な細胞内カルシウムの調節因子であることを示している.また,海馬スライスを用いた実験から,欠損マウスではNMDA刺激によりJNKの活性化が認められた.これらのことから,ヒポカルシンは細胞内カルシウムの蓄積からJNKカスケードの異常活性化,細胞死シグナルの活性化機構を抑制していることを示しており,解析を進めている.
|