研究概要 |
ヒポカルシンは海馬錐体細胞に特徴的に高濃度に分布するカルモジュリンスーパーファミリーに高親和性カルシウム結合蛋白質で,長期可塑性の入力依存性誘導カスケードの調節因子であるとともに,カルシウム濃度の変動に基づくアポトーシス誘導を抑制している可能性が示唆されている.本年度は,ヒポカルシンの作用点を同定する目的で,酵母two-hybridシステムを用いてヒポカルシンをbaitとしてマウス脳cDNAライブラリーをスクリーニングし,ヒポカルシンと相互作用する分子の同定を試みた.Two-hybrid陽性クローンとして,MLK3(7 clones),Protein 1B(3 clones),NAIP3(2 clones),complexinが単離された.β-galactosidase assayによる検定では,ヒポカルシンとの親和性はMLK3が最も強かった.一方,ヒポカルシン相同分子であるneural visinin-like protein(NVP)1,2,3にはMLK3との相互作用は認められなかったことから,ヒポカルシンとMLK3の結合は特異的で,それぞれの相同分子に特異的な標的分子が存在するものと思われる.ヒポカルシンはMLK3のC-末端近傍のPro/Ser/Thr-rich region上流域と結合することが明らかとなった.ヒポカルシンのEF-ハンド領域ごとに断片化した発現蛋白質にはMLK3との相互作用は認められず,立体構造とアミノ末端領域が結合に関与することが示された.今回見いだされたNAIP3は神経系に特異的なIAPファミリーの分子で,カスパーゼカスケードを抑制してアポトーシスの抑制に働くことが知られている.MLK3はJNKカスケードを担うMAP-KKKファミリーの主要な分子で,アポトーシスの誘導に働くことが知られている.今後,これらの標的分子の活性に対してどのような作用を持つかを明らかにしていく予定である.
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