研究概要 |
ヒポカルシンは海馬錐体細胞に特徴的に高濃度に分布するカルモジュリンスーパーファミリーに高親和性カルシウム結合蛋白質で,長期可塑性の入力依存性誘導カスケードの調節因子であるとともに,カルシウム濃度の変動に基づくアポトーシス誘導を抑制している可能性が示唆されている.昨年度は,ヒポカルシンが細胞死に及ぼす効果について,欠損マウス海馬初代培養系を用いて生存率を比較検討し,グリア細胞では差異は認めなかったが,神経細胞では著しい生存率の低下を認めた.過剰発現培養細胞と欠損マウス海馬神経細胞初代培養を用いた侵害刺激による細胞内カルシウム濃度の継時変化の計測から,ヒポカルシンは細胞内カルシウムの単なるバッファーではなくカルシウムチャネルの活性化に働くとともに,カルシウムポンプに対しても活性化に働いており,積極的な細胞内カルシウムの調節因子であることを示した.また,海馬スライスを用いた実験から,欠損マウスでは侵害刺激に対してJNKの活性化亢進を認め,ヒポカルシンは細胞内カルシウムの蓄積からJNKカスケードの異常活性化,細胞死シグナルの活性化機構を抑制していることを示した.本年度は,ヒポカルシンの作用点を同定する目的で,酵母two-hybridシステムを用いてヒポカルシンをbaitとしてマウス脳cDNAライブラリーをスクリーニングしヒポカルシン標的分子の同定を試み,MLK3,Protein 1B, NAIP3,complexinを候補として同定した.親和性はMLK3が最も強かった.これらのうちNAIP3は神経系に特異的なIAPファミリーの分子で,カスパーゼカスケードを抑制してアポトーシスの抑制に働くことが知られている.MLK3はJNKカスケードを担うMAP-KKKファミリーの主要な分子で,アポトーシスの誘導に働くことが知られている.今後,これらの標的分子の活性に対する作用を明らかにしていく予定である.
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