近年になりタンパクの輸送系に加え、mRNA輸送システムが学習や記憶の保持など神経に固有の機能に対し重要な役割を果す事が明らかにされている。シナプス構造は神経伝達によって可塑的に変換されるが、事実、その過程に関わるタンパクは細胞体から輸送されるのではなく、シナプス近傍で合成・供給される事も示されている。つまり、mRNAが樹状突起内を輸送され、シナプス部で翻訳される機構について解析する事が大切である。我々は、当該研究年度内にPuralphaタンパクに対する抗体によってKinesin5A(or 5C)を備えたvesiculated rER(小胞化したrER)が免疫沈澱される事や、更にこのrER複合体にPur alphaに加え、Staufen、脆弱性X症候群タンパク(FMRP)、Myosin Vaなどが含まれている事を見出した。また、これらのタンパクはいずれもEDTA処理によってmRNAとの複合体としてポリソームから遊離する事も示された。いずれのタンパクもmRNA輸送やシナプス局部での翻訳調節に関与しうる事から、Puralphaタンパクは樹状突起へ輸送されるmRNPに結合している可能性が考えられる。実際、初代培養神経細胞の内部でこれらのタンパクは、突起内部で互いに共局在していた。 我々は、これらのmRNP複合体に含まれているmRNAとタンパク集団の解析を進めているが、最近になり、免疫沈澱法で精製したこれらのmRNPのproteomics解析により、mRNAに共通に結合しているpoly(A)binding protein、NMDに関係するnonsense mRNA reducing factor、ある種のhnRNP、nucleolin、再びmyosinVA、輸送やsignal transductionに関係する数種類のタンパクなど14種類のタンパクを検出した。また、mRNAとしても、これまで樹状突起に輸送される事が知られている、CaMKIIalpha、Arc、MAP2などのmRNAが検出された。これらの結果は、Puralphaを共通に含むと考えられるmRNPが、樹状突起への輸送やシナプス局部における翻訳などの過程で機能している可能性を示唆している。 当該年度内に得られた以上の結果に基づき、今後mRNAの樹状突起輸送や翻訳過程においてPuralphaタンパクが、他のタンパクと共同して果たす機能について解析する予定である。
|