神経軸索形成過程におけるアンキリンBの役割をさらに解明するため、スペクトリン骨格と結合しない変異型アンキリンB(1000番目のアミノ酸がアラニンからプロリンへ変異したもの)を作成し、神経細胞での分子動態を解析した。この変異型アンキリンBは神経細胞体周囲膜様突起・糸状突起内で後方(細胞体方向)移動しないことから、アンキリンBとアクチン線維後方移動の連結はスペクトリンを介することが判明した。平成13・14年度の研究成果と併せて、アンキリンBは神経接着分子L1とアクチン後方移動を連結するクラッチ分子として機能して神経軸索形成を促進することが明らかになり、またヒトL1細胞内領域の遺伝子変異により引き起こされる先天性脳奇形では、L1とアンキリンBの結合阻害によるクラッチ接続不全が軸索路低形成の発症メカニズムであることが示唆された。以上の結果を、Journal of Cell Biologyに論文発表した。 L1細胞内領域はERMファミリー分子を介してアクチン骨格と結合することが知られており、ERMファミリーがクラッチ分子として機能する可能性を検証する実験を行った。L1細胞内領域のERM結合ドメインを欠損した変異型L1を作成し、この変異型L1とアクチン後方移動の連結を解析した。抗L1抗体をコートしたマイクロビーズを光ピンセットで操作して神経細胞体周囲糸状突起形質膜に接着させその動態を解析したところ、この変異型L1はアクチン後方移動とは連結しないことが明らかになった。以上の結果から、ERMフザミリー分子がL1依存性軸索形成を制御するクラッチ分子である可能性が示唆された。
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