免疫グロブリンスーパーファミリーに属するGPI-アンカー型神経接着分子NB-2の機能解析を目的とした研究である。これまでの研究から、NB-2は脳神経系の発生過程においてシナプス形成が盛んな生後1〜2週目にかけて一過的に聴覚系神経核に発現することが明らかとなった。本研究では、聴覚機能系の発生/成熟過程におけるNB-2の機能を行うために、NB-2遺伝子欠損マウスを作製した。このマウスは、翻訳開始コドンの直下からシグナルペプチドに相当する部分を欠失する代わりにtau-Lac Z遺伝子をin frameで結合させた遺伝子改変を施したマウスである。まず、このF1世代のヘテロ型マウスから作製した脳切片を用いてx-gal染色を行い、tau-lac Zの発現を指標にNB-2の発現分布を検討した。その結果、聴覚機能系の各神経核、即ち、蝸牛神経核、上オリーブ核、下丘、内側膝状体・聴覚野ならびにその投射経路においてx-gal陽性の強い反応が認められた。この結果は、免疫染色およびin situ hybridizationで得られたNB-2の発現分布とほぼ同様の結果であった。次に、これらの神経核群の構築に対するNB-2遺伝子欠損の影響を検討した。ホモ型欠損マウスの上記神経核群を含む脳切片をニッスル染色した結果、野生型マウスのそれらと何ら変化がないことが明かとなった。以上の結果から、NB-2遺伝子は特異的に聴覚系神経核群に発現するが、これら神経核の形成には関係しないことが示唆された。現在、聴覚機能の成熟過程における遺伝子欠損の影響を検討する目的で、興奮性入力であるNMDA、および抑制性入力であるglycine、GABAの発現状況を調べると共に、強音刺激誘発性痙攣や純音感受性反応等の行動実験を行う準備を進めている。
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