RasファミリーGTPaseの機能は齧歯類の培養細胞を用いて詳細に研究されているが、他の組織における機能は明らかにされていない。神経組織においてはRasファミリーに属するGTPase群やその調節因子の発現が高く、その機能解析は重要な課題である。神経細胞におけるRasファミリーGTPaseの機能はPC12褐色細胞腫をモデル系として研究されてきたが、初代培養細胞を用いて生化学的な検討を加えた例は報告されていない。 本研究でな海馬神経細胞の初代培養系を用い、RasおよびRap1の機能を抑制する因子GAPを遺伝子導入することによりその機能を不活化した際の効果を検討することにより、これらのGTPaseの機能を検討した。神経細胞は増殖しない細胞であることから通常の導入方法は適用することができないため、アデノウィルスベクターを用いて遺伝子導入を行なった。その結果、グルタミン酸受容体刺激、細胞脱分極刺激、神経成長因子の添加のいずれの場合にも細胞内ERKの活性化はRasに依存しており、Rap1には全く依存していないことを明らかにした。これは従来PC12培養細胞を用いた結果とは全く異なり、初代培養細胞を用いてはじめて明らかにされた知見である。 この結果をふまえてRap1の機能を検討したところ、従来Rasシグナル伝達系を拮抗的に阻害するとされてきた機能の他に、細胞接着制御を行なう因子であることを明らかにした。 さらにRasファミリーGTPaseの一つであり、カルモジュリンを結合する神経特異的GTPaseRinのノックアウトマウスを作成し、その解析を進めている。
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