研究概要 |
私たちは、1990年に、ラット培養海馬ニューロンでCa^<2+>透過性AMPA型グルタミン酸受容体の存在を初めて報告したが(Iino et al.,J.Physiol.,424 151-165,1990)、その後この受容体はニューロンだけでなく、グリアにも広く分布することが明らかになった。特に、小脳皮質のベルクマングリアにはこの受容体が濃密に発現している。本研究では、ベルクマングリアのCa^<2+>透過性AMPA受容体をCa^<2+>非透過性受容体に変換し、その効果を長期的に観察するために、アストロサイト系グリアにGluR2を発現するトランスジェニックマウスの作製した。まず、遺伝子コンストラクトとして、ヒトGlial fibrillary acid protein (GFAP)プロモーターのコントロール下にラットのGluR2の発現ユニットと転写終結PolyA付加信号をおいたプラスミドベクターを作製した。GFAPが動作する膠芽腫由来の株細胞においてGluR2の発現が見られることを確認したのち、ベクター部分を除いてマウスの受精卵に注入した。得られた43匹の産仔中、7匹に挿入した遺伝子は伝達された。こららの産仔はC57BL6マウスに8代交配して遺伝背景を99%以上揃えたのち、さらに1系統については、両アリルに挿入遺伝子をもつ系統を確立した。GluR2が伝達された動物は、脳の大きさが小さく、脳重は80%前後であった。小脳の顕微鏡標本を作製したところ、小脳皮質分子層に楔状に強いGluR2タンパク質を発現が見られた。GluR2を発現したことによる機能変化については解析の途中であるがこの変異動物において、ベルクマングリア、プルキンエ細胞、可塑性変化を含む小脳皮質のシナプス機能、形態形成、小脳の運動調節機能にどのような変化が生じるかの確認が今後の課題である。
|