研究概要 |
嗅覚系神経上皮では成体においても神経新生が恒常的に起こっており、神経細胞に障害を与えると神経新生が促進されることが知られている。神経新生の細胞分子機構を検討するため、成体マウスの片側の嗅球を外科的に除去して嗅上皮の神経新生を片側性に促し、新生細胞を核酸アナログであるBrdU投与によって標識し、時間を追って観察した。匂い分子を感知する嗅上皮と、フェロモン分子を感知する鋤鼻神経上皮のうち、神経新生の促進は鋤鼻神経上皮においてより著しいことが分かったため、これを対象とした。無処置側ではBrdU陽性細胞は鋤鼻神経上皮の基底層に少数散在するのみであったが、処置側ではBrdU陽性細胞が基底層全体にわたって多数観察されたことから、定常状態では増殖可能な細胞の多くは休止状態にあり、刺激を受けると増殖を始めると推察された。BrdU陽性細胞は、数日後には神経上皮のより表層に近い層に移動し、GAP-43,beta-III tubulinなどの神経分化マーカーを発現していた。鋤鼻神経上皮は深層と浅層の2層から成り、それぞれGo陽性、Gi陽性神経細胞が分布している。BrdU標識実験から、新生神経細胞は初めGo陽性で、その後Go陽性神経細胞と、Gi陽性神経細胞に分化することが分かり、2種類の神経細胞は共通のGo陽性未分化神経細胞から分化することが示唆された。この分化過程をより詳細に解析するため、未分化神経細胞を可視化できるネスチン-GFPトランスジェニックマウスに嗅球除去を行い、増加したGFP陽性細胞の単離回収を行った。分化マーカーの発現検討から、このマウスの鋤鼻神経上皮ではGFPは未分化な新生神経細胞に発現していた。神経上皮を剥離して細胞を分離し、蛍光顕微鏡下でGFP陽性神経細胞を選択的に回収することに成功し、より詳細な神経分化の分子機構を調べる基盤を確立することができた。
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