皮膚感覚などの体性感覚情報は脊髄後角で処理され視床をへて大脳に投射される。また、脊髄に終末する各種の下行性線維がそれを調節する。我々は脊髄切片後角の神経活動を光学的にイメージングし、体性感覚の情報処理に重要な神経可塑性と緩徐応答を解析してきた。その過程で、入力線維終末のシナプス伝達が長期増強されるか長期抑圧されるのかは抑制性介在細胞が調節している可能性が明らかになった。しかし、現有のイメージング装置では細胞群全体の活動しか記録できず、単一細胞レベルの現象との対応については確証が得られない。 本研究では、神経活動のイメージングと単一細胞内記録を同時に行う計測システムを構築し、介在細胞が可塑性発現に果たす役割を調べる。具体的には、一次求心性線維への高頻度条件刺激で後角に生じる神経興奮の可塑的変化について、まず、可塑的変化領域にある細胞を、その形態を赤外位相差顕微鏡像で同定した上でホールセルパッチし、(1)どの種類の細胞が可塑性に関与しているのかを直接的に調べる。また、その細胞を種々のタイミングで刺激するなどして、(2)抑制性介在細胞の賦活が可塑性の方向(長期抑圧か増強)を決めるのかを検証しその条件を調べる。さらに、我々は、低頻度条件刺激が高頻度条件刺激による長期増強をリセットすることを示したが、(3)2種類の条件刺激はどこでどのように相互制御をするのか明らかにし、(4)可塑性発現を調節する物質の探索も行う。 平成13年度には、まずスライスパッチの技術を韓国の研究者から習得し論文を発表した。次いで、イメージングとホールセルパッチの同時計測システムを完成した。現在、長時間記録を安定に取るための最終的な調節を行っている。また、光応答の原理を調べる研究と、微小部位のイメージングの可能性を探るためにシナプス前終末修飾作用の解析を行い、前者は論文として投稿中、後者は印刷中である。
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