我々は、シナプス部位における種々の蛋白のダイナミクスと、それによって引き起こされるシナプスの構造的、機能的な変化のメカニズムに興味を持ち、研究を進めてきた。本研究では、新たな蛋白相互作用の探索を目的として、ファージディスプレイ法によるスクリーニングを行ってきた。 その結果、従来多用されていたtwo-hybrid assayでは原理的に同定できないような形の相互作用もファージディスプレイ法によって同定できた一方で、既知の相互作用で同定できないものも多いという事が分かり、ファージディスプレイ法の有用性と同時に限界も示されることとなった。適用方法としては、two-hybrid assayやアフィニティ精製等の従来の方法と組み合わせて用いるのが最も有効であろうと考えられた。 まず、ファージディスプレイ法を用いてNMDA型グルタミン酸受容体の細胞外ドメインや細胞接着因子L1の細胞外ドメインをプローブとして結合蛋白を検索した結果、ニューロン特異的に発現するユビキチンリガーゼであるfbx2が結合蛋白として同定された。解析の結果、fbx2はこれらの蛋白を修飾しているN結合型糖鎖を認識していることが判明し、これらの受容体の細胞内での代謝や品質管理に関わっていると考えられた。 この結果から、シナプスにおける受容体蛋白量の調節にユビキチン系が関わっている可能性が出てきたため、、以前にtwo-hybrid assayを用いて代謝型グルタミン酸受容体に結合する蛋白として同定されていたユビキチンリガーゼSiahも調べてみたところ、I型代謝型グルタミン酸受容体を特異的にユビキチン化し、分解へと導くことが判明した。このような分子の同定を端緒として、今後シナプスに存在する受容体量の調節とユビキチン系の関わりが明らかになってくるものと期待される。
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