後期相LTPが長期的シナプス新生へと移行する過程を解析するために、以下の実験モデル系を確立した。ラット海馬の切片培養標本に対し、アデニル酸シクラーゼの活性化剤であるホルスコリン(FK)50μMを1日1回30分ずつ連続3日投与すると、その10-12日経過後に、CA3-CA1シナプスにおける最大集合シナプス電位の大きさを最大集合スパイクの大きさで除した比の値(E/S比)を指標として見て、CA1錐体領域のニューロン1個あたりのシナプス数が増加する。この効果はFK刺激の繰り返し回数に依存し、1回で無効、2回でやや有効、3回以上では飽和した。また、投与回数を固定して比較すると、1-50μMの範囲で濃度に依存して増大すること、刺激の間隔は3-24時間では有効で、1時間以下または48時間以上開けると無効になることが分かった。興味深いことに、FKの1回投与では、数時間オーダーのLTPが起き、E/S比もいったんは上昇するが、24時間後には刺激前の値に戻っていた。 次に、電気的指標で見たシナプス新生を、FK繰り返し投与14日後の培養標本について形態学的に確認した。まずシナプス前部構造の指標として、CA1樹状突起領域でのシナプトフィジン免疫陽性スボヅトの密度を調べると、FK繰り返し投与群で対照群(生理的に不活性なFK類似体であるジデオキシホルスコリン繰り返し投与群)に比べて増加していた。ついで、シナプス後部構造の指標として、蛍光標識剤PKH26でCA1錐体細胞を染色し、共焦点検鏡後三次元再構築して樹状突起棘数を数えたところ、遠位樹状突起上において一定長あたりの棘数が増加していた。さらに透過型電子顕微鏡観察によって微細構造を検討すると、遠位樹状突起上において一定長あたりのシナプス数が、近位樹状突起上においては有孔末端シナプス(perforated synapse)の数が増加していた。以上の結果は、形態学的にシナプス新生を裏付けると同時に、シナプス伝達効率の増大をもたらす形態変化には複数の要素があることを示唆する。
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