視床から大脳皮質への特異的な神経投射は神経回路の形成機構を明らかにするために非常に適した系である。本研究では、層特異的に発現する分子の探索から得られたEph受容体とそのリガンド分子の視床皮質投射における役割を調べた。まずin situハイブリダイゼーション法により、受容体EphA4は、視床皮質投射の形成される発生期において大脳皮質表層に発現すると共に視覚系、体性感覚系の視床に特異的に発現することがわかった。次にEphA4レセプターに対するリガンドが、視床軸索の標的認識を制御する可能性を検討するために、発生期ラットの大脳におけるさまざまなephrinリガンドの発現分布を解析した。その結果、そのリガンドの一つであるephrin-B3が大脳辺縁系、視床内側部、視床下部において強く発現することがわかった。大脳新皮質において発現は弱いものの、視床軸索が投射する4層を除く2/3層、5層に顕著な発現が認められた。さらに、ephrin-B3がEphA4を発現する視床外側部から発する軸索伸長に対してどのような影響を及ぼすかを調べるため、ephrin-B3を発現させたCOS7細胞の膜分画を作製し、この膜分画上で視床組織を培養した。その結果、EphA4を発現していない視床内側部由来の軸索がその膜分画上で成長を示したのに対して、視床外側部由来の軸索成長はわずかであった。以上の結果から、ephrin-B3がEphA4を発現する視床外側部の軸索伸長を抑制する作用をもっており、視床外側部から大脳新皮質への領域特異的、あるいは層特異的な投射パターン形成に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
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