視床下部の前方に位置するAVPv(anteroventral periventricular nucleus)は雌ラットのGnRHニューロンへの正のフィードバックをもたらす領域であり、エストロゲンは視床下部における神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の発現を増加させることから、AVPvのNOによるGnRHニューロンの活動の制御が示唆された。今回の研究では、AVPvのエストロゲン投与におけるnNOSmRNAの発現量の変化について検索した。実験はウィスター系雌ラットを卵巣摘除し、発情間期に相当する低濃度のestradiol-17βを投与した群および発情前期に相当する高濃度のestradiol-17βを投与した群を作成した。コントロールにはvehicleを投与したラットを用いた。それぞれのラットの凍結切片を作成し、^<35>SでラベルしたnNOSmRNAに対するオリゴプローブを用いてin situハイブリダイゼーションを施行した。写真乳剤に露光し、8週後に現像を行い、細胞内の銀粒子を画像解析装置にて計測し、統計処理を施行した。AVPvにおけるnNOSmRNA陽性ニューロン数は高濃度エストロゲン投与群において、他の群に比べて有意な増加を認めたが、陽性ニューロン内の銀粒子数は3群のラット間で有意差は認められなかった。内側視索前核(MPN)についても同様の検索を施行したところ、nNOSmRNA陽性ニューロン数および陽性ニューロン内の銀粒子数は高濃度エストロゲン投与群において、他の群に比べて有意な増加を認めた。また、AVPvおよびMPNにおいてNOSニューロンがエストロゲンレセプターαを有していることが確認された。以上の結果より、発情前期に相当する高値の血中エストロゲンレベルにおいては、AVPvのnNOSmRNAの発現がMPNとは異なる様式で増加することおよびエストロゲンレセプターαの関与が示唆された。
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