研究概要 |
ラット胎生期における呼吸中枢の神経回路の特性は,E19において劇的に変化する(E22で出産).E19を境に,吸息相がそれまで第一相のみ(胎児型)であったものから,それに第二相が加わって,その持続時間が数倍に延長し(新生児型),呼吸性ニューロンも新生児期のものと同じサブタイプが明確に識別されるようになる.本研究の目的は,胎児型と新生児型の呼吸中枢神経回路の本質的な違いを明らかにすることにあった. 呼吸性運動神経活動の兆しが見られるとされる胎生期16日(E16)以降のラットを用い,摘出脳幹-脊髄標本を作成し,延髄呼吸性ニューロン(頚髄C4/C5活動と同期した活動相を持つニューロン)からホールセル記録を行い,膜電位,イオンチャネル,シナプス電位および軸索投射などを解析した.特にニューロンの内因性バースト形成能について,以下のことが明らかになった.E17-20の胎児型C4吸息性活動パターンを示す標本において,約60%の吸息性ニューロンが電位依存性のバースト活動を示した.E19において,入力抵抗を調べたところ,バーストニューロンで789±135MΩ(n=9),非バーストニューロンで596±127MΩ(n=9)とバーストニューロンで有意に(p<0.01)高かった.また膜容量を比較したところ,バーストニューロンで73±15pF,非バーストニューロンで89±25pFであり,有意差はなかったが,バーストニューロンで低い傾向が見られた.バーストニューロンは低Ca2+/高Mg2+液潅流下においても電位依存性バースト活動を維持し,内因性バースト形成能を持つと結論された.本年度は,当研究室において,光学的測定装置を導入したので,予備実験として,胎児型のニューロンネットワークと新生児型のそれとの相違点が光学的測定によって検出可能かどうかについても検討した.その結果,橋-延髄全体の呼吸性ニューロンネットワークが胎児型と新生児型で大きく異なることを示す光学的画像が得られている.今後,この方法と電気生理学的解析法とを組み合わせて,呼吸中枢神経回路を解析することが,その発達を理解する上で極めて有力な手法となると考えられた.
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