神経芽腫を中心とする神経系腫瘍細胞株の多くで、Shcファミリーに属するShcCドッキング蛋白質の顕著なチロシンリン酸化が認められた。更に2種類の異なる細胞株(NB39-nu、Nagai)において、リン酸化したShcCと複合体を形成する150〜200kDaの複数のバンドは質量分析で単一の既知のチロシンキナーゼALKであることが明らかとなった。これらの細胞ではALKのチロシンキナーゼ活性も著明に上昇しており、その原因がALK遺伝子の著明な増幅によることがsouthern blotにて確認された。ALK遺伝子は染色体上N-myc遺伝子に近接しており、N-mycとのco-amplificationが起こっている可能性が示唆された。ALKと結合することが知られるIRS-1やPLCγのリン酸化は認められなかったため、ShcCのリン酸化がALK増幅というイベントの比較的特異的な媒介分子であることが示唆された。またShcCのドミナントネガティブ型を発現する神経芽腫細胞株を構築することにより、ShcCの機能解析を検討している。ドミナントネガティブ型ShcCを発現するNB39-nu細胞株では腫瘍形成が著明に抑制された。チミジン取り込み能やMAPキナーゼの活性には大きな変化が見られなかった一方、PI3k-Akt経路はドミナントネガティブ型で抑制されている結果が得られたため腫瘍細胞のアポトーシスに差がある可能性を考え、下流シグナルの解析を進めている。また、既に樹立したShcBとShcCのノックアウトマウスの行動学的解析が進行中であるが、ShcBのノックアウトマウスが自発運動量の低下や各種ストレスに対する感受性の冗進が見られたのに対し、ShcCのマウスはストレスに抵抗性を示し、両者の機能の差に対する手掛かりが得られつつある。
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