研究概要 |
神経芽腫細胞株およびヒト神経芽腫組織の約10%において、遺伝子増幅によって受容体型チロシンキナーゼであるALKが活性化して、下流のドッキング分子ShcCの過度のリン酸化および、ALK-ShcCの安定した複合体形成がおこり、最終的にMAPK経路の活性化がおこるというメカニズムを始めて見出した。ALK-ShcC経路の活性化によりEGFやNGFなど増殖因子刺激に対してMAPキナーゼが不応性となっており、他の増殖因子経路がdown-regulateされていることが予想された。これを支持するように、ALKの増幅があるNB39-nu細胞においてALKの発現をRNAiの手法によって抑えると腫瘍細胞がアポトーシスに向かうがALKの増幅のないSK-N-MCなどの細胞ではそのような現象がみられない。アポトーシスに先立ちShcCのリン酸化、MAPK, AKTなどのリン酸化の低下が認められることから、ALK経路がNB-39-nu細胞などでは主要な細胞生存シグナルを送っていることが確認できた。ShcCのGrb2結合部位の3箇所のチロシンをフェニルアラニンに置換したドミナントネガティブ型を発現するNB39-nu細胞ではチミジン取り込み能やMAPキナーゼの活性には大きな変化が見られなかった一方、PI3K-Akt経路はドミナントネガティブ型で抑制されており、細胞運動能・浸潤能の低下やレチノイン酸による分化誘導後の突起形成能の消失などが認められた。一方でin vivoでは顕著にヌードマウスによる造腫瘍能の抑制をおこした。このヌードマウス腫瘍組織において細胞増殖関連抗原の指標となるMIB-1(Ki-67)およびS期調節サイクリンであるcyclin Aの発現が抑制されることから、ALK-ShcCを介するpathwayがこうした腫瘍細胞の細胞周期の進行に関与していることが示唆された。
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