オリゴデンドロサイトの細胞系譜の確立と、最終段階におけるミエリン化形成機構について神経接着分子L1に着目して研究を行った。 1.オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)とオリゴデンドロサイト(OL)の培養法の確立。 ラット胎生16日目の大脳皮質を血清存在下で1週間培養後、継代し同様に1週間培養する。さらに継代し2日間血清培養後、PDGF存在下で無血清培地中で培養し1-3日目にOPCを得る。培養液からPDGFを除きT3とT4を加え3日培養することによりOLとなる。この方法は従来使われている抗体による免疫選択法に比べ比較的多量にさらに純粋なOPC(98%)とOL(96%)を得ることができた。 2.OPCとOLにおける神経接着分子L1の発現を生化学的、免疫細胞化学的解析を行った。 lmmunoblot解析によりOLにおいてのみL1発現が認められた。その発現はOPCからOLに分化するに従い徐々に上昇した。免疫細胞化学的アプローチによりその発現分布を調べてみたところOLにおいて細胞体はもとより突起、更にはその先端までL1が存在している事が明らかとなった。この時期のOLの突起の先端にまでL1の発現が及んでいることから、脳の発達段階においてL1分子が高発現している神経軸索と容易に接触し認識しあうことによりミエリン形成を誘導することが示唆された(投稿中)。 3.新たに開発したミエリン形成実験法でL1の関与を検討した。この培養系でMBP陽性ミエリン未形成型オリゴデンドロサイト(形態1)が約20%、MBP陽性ミエリン形成型オリゴデンドロサイト(形態2)が80%の割合で存在した。オリゴデンドロサイトをアストロサイトと神経細胞上に接種した直後に抗L1抗体を添加すると、形態1型細胞が80%以上存在が認められ、形態2型はほとんど認められなかった。ミエリン形成の第一段階がどの様に制御されているかは知られていないが、軸索に多量に発現しているL1と、オリゴデンドロサイト成熟過程後期に発現しているL1とのホモフィリックな結合により、軸索側とオリゴデンドロサイト側に情報伝達が起こりミエリン形成が開始すると考えられる。これはミエリン形成初期過程の機構を解明する第一段階であり、今後この神経活動及び軸索依存的なミエリン形成機構が明らかになることにより脱髄疾患の再生、修復などに役立つと考えている。
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