研究概要 |
脳はそのエネルギーのほとんどすべてをグルコースに依存しているが、神経細胞のグルコース利用の詳細に関しては不明の点が多い。従来、細胞内へのグルコース取り込みは、主に放射性標識グルコースを用いて調べられてきたため、時間的および空間的制約から単一細胞レベルでのリアルタイム計測が困難であった。一方、申請者らは蛍光標識2-デオキシグルコース(2-NBDG)が、生きた単一哺乳動物細胞にグルコーストランスポーターを介してD-グルコースに類似したキネティクスにより特異的に取り込まれることなどを明らかにしてきた(Yamada,K.他, J.Biol.Chem., 2000)。そこで今回、急性単離した大脳皮質ならびに視床下部細胞に対して100-400μMの2-NBDGを投与後、溶液を洗い流し蛍光強度の変化をSITカメラで計測したところ、投与前と比較して蛍光強度が有意に増大した。更にパッチクランプ用パイペット内に2-NBDGを充填した上、cell-attachモードでパッチを形成させてその様子を観察したところ、時間経過とともに徐々に細胞内に2-NBDGがとりこまれていく様子が観察された。急性単離した黒質などの神経細胞は、グルコースを含むリンガー液中で高頻度の自発発火活動が維持されるので(Yamada,K.他, Science, 2001)、これらの神経活動とグルコース取り込みの関係について、2-NBDGをトレーサーとして用いて解析を進めている。また皮質スライスを用いて白質を電気刺激し、神経興奮の見られる領域において2-NBDG取り込みの様子を2次元的に観察するシステムを作成した。比較的低濃度の2-NBDGを含む潅流液中に置いたスライスを刺激し、蛍光強度の変化を調べ、同時に細胞外記録により神経活動パターンを計測すると、局所的に取り込みの違いが見られた為、更に詳細な検討を加えている。
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