本研究はニホンザルを用い、霊長類における長期記憶形成の分子機構の解明を目指している。ニホンザルに長期記憶課題としてヒトにも用いられている対連合課題を行わせ、長期記憶の形成に伴い発現誘導される遺伝子を定量的RT-PCR法およびin situ hybridization法を用いて調べてきた。これまでにサルの下部側頭葉皮質において視覚性対連合記憶の形成時に脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子および前初期遺伝子の一つであるzif268遺伝子の発現が特異的に誘導されることを見いだした。さらにこれら遺伝子以外にどのような可塑性関連遺伝子が視覚性長期記憶の形成時に発現が誘導されるか解析を続けている。 さらに遺伝子の発現解析実験により同定された分子の長期記憶の形成、維持における機能を調べるために、アンチセンスヌクレオチドによる遺伝子発現抑制実験を計画している。BDNFアンチセンスオリゴヌクレオチドの脳実質内注入による発現抑制効果の評価を行うために、ラットを用いる実験系を開発した。ラット嗅索切断により嗅球の僧帽細胞に神経細胞死が誘導されることから、BDNFセンスオリゴヌクレオチドの注入による神経細胞死への影響を調べている。また、視覚性対連合課題を学習した脳梁離断サルをこれまでに2頭作製している。これらの動物を用い、電気生理学的記録法により対連合記憶に関連した活動を示すニューロンの下部側頭葉皮質における分布を調べていき、これらのニューロンが見られる部位にアンチセンスオリゴヌクレオチドを注入し、その効果を調べていく予定である。
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