研究概要 |
本研究ではニホンザルを用い、霊長類における長期記憶形成の分子機構の解明を目指している。ニホンザルに長期記憶課題としてヒトにも用いられている対連合課題を行わせ、長期記憶の形成に伴い発現誘導される遺伝子を定量的RT-PCR法およびin situ hybridization法を用いて調べてきた。これまでにサルの下部側頭葉皮質において視覚性対連合記憶の形成時に脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子の発現が特異的に誘導されることを報告している。さらに、前初期遺伝子の一つであるzif268遺伝子の発現が、視覚性対連合記憶の形成時に下部側頭葉皮質において発現誘導されることを見いだした(Tokuyama et al.Journal of Neurochemistry,2002)。これらの遺伝子以外の可塑性関連遺伝子についても、視覚性長期記憶の形成時に発現が誘導されるか解析を行ってきた。 さらに遺伝子の発現解析実験により同定された分子の長期記憶の形成、維持における機能を調べるために、アンチセンスヌクレオチドによる遺伝子発現抑制実験を計画した。これまでに、視覚性対連合課題を学習した脳梁離断サルを2頭作製した。また、BDNFに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計するため、ニホンザルのBDNF遺伝子を単離し、塩基配列を決定した。この配列を元にしてアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびコントロールとしてのミスマッチ配列を持つオリゴヌクレオチドを作成した。また、BDNFアンチセンスオリゴヌクレオチドの脳実質内注入による発現抑制効果の評価を行うためにラットを用いたin vivo実験系を開発した。ラット嗅索切断により嗅球の僧帽細胞や顆粒細胞にプログラム細胞死(apoptosis)が誘導されることから、BDNFアンチセンスオリゴヌクレオチドの注入による細胞死への影響を調べてきた。
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