他者の心的状態を推定する能力(「心の理論」)の萌芽は、身振りや手振りなどの行為を制御・認知する霊長類の脳神経機構に存在する事が期待される。これらの身振りや音声の表出と同様に、「顔の表情」は異なる個体間における意味のコミュニケーションを可能にする上で重要な役割を担うと推測される。自己の特定の表情発現とともに他個体の同様の表情表出に対しても同様に活動するニューロンが存在することが推測され、この様な結果が得られるならば、このことはサルが自己と他者の行為の「意味」の共通性を理解していると解釈することが可能であると考える。本研究ではこの点に関する手がかりを得るために、行動学的および電気生理学的実験を行った。 行動学的実験においては、画像解析装置(動作解析システム)により、ニホンザルの顔面上に定めた特定の特徴点の2次元的位置を指標に、視線移動を含む顔面表情の動的変化を経時的に数値化し、それらの軌跡・速度・加速度の時間特性を解析する事によって顔面表情を行為の種類として定量化レて分類した。その結果、menacing faceとfrightened face、smacking faceの3つの表情を分類する事ができた。 また電気生理学的実験においては、大脳皮質頭頂葉後方下部領域から単一ニューロン活動を慢性的に記録し、このニューロンがコードする行動特徴を動作解析システムによって定量化した。その結果、自己(サル).の行為とともに他個体の同様な行為を観察することによっても同.様に活動するニューロンを記録した。.これらのニュー口ンの発見は「表情」においても同様なニューロンが存在することを示唆するものであると考える。
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