研究概要 |
1.シナプス伝達は神経活動依存的に変化し、それが記憶や学習の基礎的要素の1つと考えられている。我々は前研究課題(基盤研究C, 11670036)にて、シナプス後ニューロンの脱分極により引き起こされる抑制性シナプス伝達の一過性抑圧のメカニズムを明らかにした。すなわち、シナプス後ニューロンの脱分極により、内因性カンナビノイド(脳内マリファナ様物質)が合成・放出され、それが抑制性シナプス前終末のカンナビノイド受容体を活性化し、伝達物質の放出が抑制される。本研究では、このような内因性カンナビノイドを介する逆行性シナプス伝達調節についてさらに詳しく解析し、その生理的意義の解明を目指した。 2.ラット海馬ニューロンの単離培養系を用い、興奮性および抑制性シナプス伝達が、シナプス後ニューロンの脱分極およびカンナビノイド受容体アゴニストにより、どのような影響を受けるのかを比較した結果、内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達調節は興奮性シナプスにおいても見られるが、抑制性シナプスに比べ、カンナビノイド感受性がかなり低いことが判明した。(J. Neurosci., 2002) 3.内因性カンナビノイドの合成・放出に影響をおよぼす因子について調べたところ、I型代謝型グルタミン酸受容体の活性化は、(1)単独で内因性カンナビノイドの合成・放出を引き起こしうること、(2)脱分極による内因性カンナビノイドの合成・放出を促進すること、が判明した。(Eur. J. Neurosci., 2002) 4.以上の結果より、シナプス後ニューロンの活動(脱分極および代謝型グルタミン酸受容体活性化)は、まず、そのニューロンへの抑制性入力を選択的に抑制し、ニューロンの興奮性を高める方向に作用すると考えられた。
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