入力線維に繰り返し刺激を与えると、シナプス前終末からの伝達物質放出量が一過性に変化する。この活動依存的なシナプス伝達効率の変化は短期シナプス可塑性と呼ばれ、神経系における時間情報処理において重要な意義を持つ。短期可塑性のメカニズムとして、これまでKatzらにより提唱されたいわゆる「残存カルシウム仮説」による説明がなされてきた。これに対し我々は、著明な短期可塑性を示す海馬苔状線維シナプスにおいて、入力線維刺激に伴うシナプス前終末内カルシウム変化量が活動依存的に増大するというシナプス前部での新たな可塑性メカニズムを見出した。この苔状線維終末におけるシナプス前カルシウム動態の短期可塑性はCA3野シナプスの顕著な活動依存性を補償する独自のメカニズムと考えられる。想定される可能性として、(1)活動電位波形の延長あるいは電位依存性カルシウムチャンネルの促通によるカルシウム流入量の増大、(2)苔状線維終末内カルシウムストアからの(極めて高速な)カルシウム誘発性カルシウム放出(CICR)の寄与、(3)内在性カルシウム緩衝系としての高親和性カルシウム結合蛋白の飽和、などがあげられる。本研究では、光学的測定法により苔状線維終末内カルシウム動態を測定し、上記の可能性について検討した。二発刺激に伴ってカルシウム変化量は増加したが、カルシウム動態の時間経過に変化は認められなかった。また、膜透過型カルシウムキレート剤EGTA-AM投与により二発刺激に伴うカルシウム変化量の増加率は変化しなかった。これらの結果より、シナプス前カルシウム動態の短期可塑性はカルシウム流入量の増大によるものであり、CICRや内在性カルシウム緩衝系の飽和は関与しないと推定した。
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