ネコをパネルに向かって立たせ、このパネル中央に投射した光点を注視させた状態から光点を動かし、これに指向させる。この指向運動には光点の移動速度を手がかりにする速度誘導型指向運動とその位置を手がかりにする置誘導型指向運動、その中間の速度促進型指向運動の3タイプがあることが分かった。 1、速度誘導型指向運動は他の指向運動に比べて短潜時でかつ運動が速いのが特徴である。この指向運動を誘発するのに必要な視覚因子を、光点の移動速度を系統的に変化させる方法、光点の移動中に短時間消去(gap)する方法を用いて調べた緒果、(1)至適移動視覚刺激速度は300-600度/秒であり、これ以外では指向運動の速度・振幅とも減少し目標に到達できなくなる、(2)移動刺激により光点の軌跡上にある(網膜、上丘の)速度感受性ニューロンが連続的に刺激されることが必要であること、(3)正常な指向運動を誘発するには軌跡上のニューロンの約60-70%以上が刺激されることが必要であること、(4)網膜または上丘ニューロンの速度感受性は一定ではなく、その感受性は動的に制御されること、が明らかになった。 2、速度促進型指向運動では短潜時の小振幅の運動に続いて大きな振幅の運動が続く2成分の運動が、やや潜時の長い単一成分(第2成分のみ)の運動で、その速度は速度誘導型に比べて遅い。この型の指向運動では視野中心部のニューロンの速度感受性が抑制される、その抑制の程度により第一成分の運動の振幅と速度の減少、または第一成分の消失による潜時の延長と第2成分の速度の減少が起こると、考えられた。 3、位置誘導型指向運動は他の2タイプに比して潜時が長く、最大運動速度が低い。これは速度感受性ニューロンが抑制され、位置感受性経路のみのにより指向運動が発現されているためと考えられた、 4、各ネコで種々の割合で3つのサブタイプの指向運動は見られたが、優位のタイプは異なった。これは各ネコの内的状況に対応して速度感受性を動的に抑制・活性化するためと考えられた。
|