ラットパルボウイルス(RPV)は、リンパ系組織に強い親和性を示し、in vitroにおいてラット胸腺由来リンパ腫細胞C58(NT)で増殖し、アポトーシスを誘導する。感染後に生残した耐過細胞C58(NT)Rはアポトーシス抵抗性や腫瘍形成能の低下など親細胞とは異なる表現型を示す。この現象の分子メカニズムを解明しパルボウイルスの抗腫瘍性や病原性を理解するため、C58(NT)とC58(NT)Rの両細胞間で発現量の異なる遺伝子を明らかにすることを目的とした。サブトラクション法の一種であるrepresentational difference analysis(RDA)法により解析した結果、両細胞間で発現量が異なる6つの既知遺伝子と2つの新規遺伝子のDNA断片を得た。既知遺伝子に関して、ノーザンブロット法及びRT-PCR法を用いて両細胞での発現量を検討したところ、cathepsin E、thymocyto ARPP、seladin-1がC58(NT)Rで発現量が減少しており、ciliary neurotrophic factor receptor alpha(CNTFRα)、protein associating with small stress protein-1、envelop gene of Moloney murine leukemia virusが増加していた。さらに、RPV感染によるCNTFRαの発現の変化をRT-PCR法で検討した結果、感染C58(NT)においてCNTFRαの発現が増加した。CNTFRαはCNTFをリガンドとする細胞膜外レセプターで、NFκBを介して神経系細胞の生存を促進するため、C58(NT)RにおけるCNTFRαの発現増加がアポトーシス抵抗性の一因であると考えられた。また、RPV感染によりCNTFRαの発現が誘導される事から、耐過細胞の出現にCNTFRαの発現の関与が示唆された。
|