これまでの研究で、マウス/ヒトキメラプリオンタンパク遺伝子導入マウスではマウス内在性のプリオンタンパク遺伝子の存在がヒト・プリオンの感受性に抑制的に働くことを明らかにした。また、マウス/ヒトキメラプリオンタンパク遺伝子導入マウスでは発現量の増加が必ずしも感受性の増加にはならないことも明らかにした。しかしながら、同じ導入ベクターを用いた全ヒト型プリオンタンパク遺伝子発現マウスの感受試験の結果、C-末端までヒト型プリオン蛋白遺伝子の構造を有するTgマウス、ノックインマウスでは発現量にしたがってヒト・プリオンの感受性が向上することが判明した。 本年度はこれらのマウス/ヒトキメラプリオンタンパク遺伝子導入マウスの凍結脳を用いてウエスタンブロッティングによる詳細検討した。 解析に使用した抗体はヒト型プリオンタンパク質にのみ反応し、マウス内在性の野生型プリオンタンパク質には反応しない3F4と、逆にマウス野生型プリオンタンパク質にのみに反応してヒト型プリオンタンパク質には反応しないSAF-83である。 この結果、導入マウス/ヒトキメラ型プリオンタンパク遺伝子産物はヒト・プリオンにより効率的に変換されるが、マウス内在性のプリオンタンパク遺伝子産物の存在により異常プリオンタンパク質(PrP^<Res>)に構造変換されにくいことが明らかになった。同様に、マウス内在性のプリオンタンパク遺伝子産物も導入マウス/ヒトキメラ型プリオンタンパク遺伝子産物の存在によりPrP^<Res>に構造変換されにくいことが明らかになった。そして、その抑制効果はマウス/ヒトキメラ型プリオンタンパク遺伝子産物が内因性プリオンタンパク遺伝子産物の構造変換を抑制する方が大きいことが明らかとなった。このことは、今後、内因性プリオンタンパク質が導入されたプリオンタンパク遺伝子産物に与える影響を考えるうえで重要である。
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