研究概要 |
大脳皮質は脳の高次機能をになう領域である。本研究では、その発達、機能を分子レベルで理解するために、Cre/loxPシステムを用いて、大脳皮質特異的遺伝子改変システムの開発とその応用を行った。背側終脳特異的遺伝子Emx1のプロモーターの制御下にCre組換え酵素を発現するEmx1-Creマウスを、P1由来人工染色体(PAC)クローンを用いて3種類(Tg1,Tg2,Tg3)作製した。Cre酵素によるloxP配列間の組換えの空間的および時間的特異性をCAG-CAT-ZとROSA26Rという2系統のレポーターマウスを用いて解析した。その結果3系統のトランスジェニックマウス(特にTg3系統)で、胎生10日目から成体にいたるまで全ての発達段階で、大脳皮質、海馬、嗅球の興奮性神経細胞とグリア特異的に組換えが検出された。Cre酵素による組換えのパターンは、対象とするloxPによって異なった結果を生じることがしばしば報告されているが、私達のEmx1-Creトランスジェニックマウスに関しては、それらの影響は小さいあるいは無いと考えられる。従って様々な標的遺伝子を操作する上で汎用性の高いCreマウスの作製に成功したといえる。私達は、このシステムを体性感覚野の回路発達の研究に応用している。また同時に、Cre抗体による免疫組織化学的解析の結果、3系統のトランスジェニックマウスのすべてで、成体においてもCre蛋白の発現が維持されていることを確認した。したがって、今回の研究で用いたPACクローンには、Emx7遺伝子の発現特異性に必要な制御因子のすべてが含まれることがわかった。現在までにそのような特異性の高いプロモーターの報告はなく、この大脳皮質特異的なプロモーターの有用性は高い。
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