減数分裂時における遺伝的組換え現象は、生物の遺伝的多様性高める重要な機構の一つである。しかし、その機構に関しては未だ不明な点が多い。我々は被毛の形態異常を起こす突然変異の連鎖解析の過程で、マウス第15染色体末端近傍で組換え率が雄で雌の数十倍高いという大きな雌雄差のあることを見いだした。この原因を明らかにすることは、減数分裂時の組換え機構を探る上で重要な手がかりとなると考えられる。我々はこの雌雄差が雌において組換えが抑制された組換えのcold spotか、あるいは、雄におけるhot spotであるのかを明らかにするために、この領域内のマイクロサテライトマーカーD15Mit40とD15Mit15の間でBACおよびYAC contigを作製してその物理距離を測定した。その結果、マウスゲノムでの物理距離当たりの平均組換え率と比較して、雌では組換えのcold spotであり、雄ではhot spotであることが明らかになった。我々はこの領域内に新たにDNAマーカーを作製し、詳細に検討を加えた結果D15Mit15近傍の約200Kb内にこの領域の雄における組換えの80%を起こしているhot spotの存在が明らかになった。次にこの現象が用いたマウス系統に依存するものかどうかを検討するために種々のマウス系統を用いてこの領域の組換え率を検討した。組換えの雌雄差が明らかになったのはMus musculus domesticus(dom)由来の近交系MEMとのF_1においてであった。そこでMEM系統の代わりに同じmol由来の近交系C57BL/6とM.m.molossinus(mol)由来の近交系JF1を用いて、物理距離を測定したマーカー間の組換えを調べたところ、雌雄いずれも組換え体が得られなかった。一方、dom同士の組み合わせである129とSWRのF_1では、同様の雌雄差は観察されたがその差は約4倍であった。以上からこの領域の組換え雌雄差は用いる系統に依存したものであることが示唆された。
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