研究概要 |
研究期間の最終年度に当る本年度の研究目的は,周波数領域及び時間領域の電磁波逆散乱問題に対する解法の改善を図るとともに,提案した可視化アルゴリズムの有効性を検証することである。本年度の研究成果は,以下に示す通りである。 1.マイクロ波領域における単一及び複数の周波数を用いて,均質散乱体の比誘電率を推定する周波数領域逆散乱問題について考察した。散乱電界の残差ノルムに応じて正則化項を変化させる新しい手法を提案し,従来のTikhonovの正則化法を適用した場合との比較を行った。その結果,提案した手法は従来の正則化法を適用した場合よりも少ない反復回数で精度の良い推定結果を与えることが示された。また,複数周波数の利用によって高速且つ高分解能な可視化を実現できることが明らかになった。 2.時間領域逆散乱問題の解析において,入射波のパルス形状が不均質散乱体の比誘電率の推定に与える影響について詳細な検討を行った。逆散乱問題を散乱電界に関する汎関数の最小化を行う最適化問題に帰着させ,共役勾配法を適用した。入射波のパルス形状を変化して比誘電率の推定を行った結果,高周波成分を多く含むパルスを用いた場合が高精度な推定結果を与えることが示された。 3.キラル媒質とメタマテリアルによって構成された層状スラブに関する周波数領域逆散乱問題について検討を行った。遺伝的アルゴリズムを適用して,所望の透過特性を与える層状スラブの構成パラメータの最適値を求めた。複雑な媒質の構成パラメータが効率良く得られ,遺伝的アルゴリズムは周波数領域逆散乱問題の解析に有効であることが明らかになった。 平成13〜15年度に得られた研究成果を総合的に検討した結果,本研究で提案した高精度可視化アルゴリズムには汎用性があり,乳がん組織のように背景媒質との比誘電率差が大きい散乱体に対しても有効であると結論できる。
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