研究概要 |
本研究計画は,まず,脳磁界計測データから脳活動の時間・空間パターンを再構成する手法を開発し,さらに,これを用いて脳の言語処理過程の解明をめざすものである. 脳活動の時空間パターン再構成技術に関しては,研究代表者の関原が本研究の海外共同研究者らと共にレーダーやソーナ等の信号処理の分野で開発されているadaptive beamformerと呼ばれる方法を基にした再構成手法を提案し,その有効性を示す基礎実験の結果を発表した.しかし、adaptive beamformerは本質的に時間的に相関を持った信号源活動が存在するとうまくいかないことが知られており,H13年度研究では主に信号源の時間相関が信号源再構成にどのような影響を与えるかについても理論的な解析を行なった.その結果,提案法は中程度の時間相関(相関係数0.6程度)に対しては大きな影響は受けないこと,高い時間相関を持つ信号源に対しては信号強度の減少と再構成した活動の時間波形に誤差を伴うことを見出した.この理論解析はそれを裏付ける計算機シミュレーションとともにIEEE Biomedical Engineering誌に論文投稿中である.さらにこの方法の有効性を示すため正中神経刺激および後部頚骨神経刺激によって測定した体性感覚誘発脳磁界に適用し,これら信号源の振る舞いに関し従来知られていない知見を得ることができた.この結果は2報の論文としてNeuroReport誌に発表した. 海外共同研究者のMIT言語学部Marantz教授は人が言葉を見たり聞いたりした時,心の中のボキャブラリー(心的辞書)へアクセスするときの脳磁界信号を捕らえつつある.本研究の今後の展開として提案法を用いてこの脳磁界信号の信号源を再構成し,心的辞書に脳のどの部位が係わっているかを明らかにすることにより言語処理に係わる脳の機能部位の解明を目指す.
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